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ゲームのルール/株主のチカラ

JPモルガンはベアー・スターンズ買収の破格の条件を、自ら買収価格を引き上げることで、決着を目指した。東インド会社に始まる、現代も世界で利用されている株式会社という仕組みは、株主の経営への持分による参加を認めており、このままでは「破格の条件」の案件自体が株主の反対で水泡に帰してしまうと危惧したJPMが、次の一手を出したのだ。

こういう事態になると、株主の権利というゲームのルールが浮き上がる。1%、3%、20%…過半数と株式の持分により、できること、与えられる影響が大きく変わってくるが、そのルールは当たり前だが、事前に決まっている。この数字が変わるようなことがあれば、ゲームのルール、バランスも変わってくる。

国により、資本主義はその国の性格、カルチャーと融合し、それぞれの特徴を持った発展を遂げた。ゲームに参加しているのは人間なのだから、正面衝突を厭わない国民もいれば、舞台裏で決着をつけたい人もいるのは当然で、ルールの運営方法は変わってくる。ルールをフル活用するアメリカ流がいいというわけではないけれど、この株主の権利を無視し、独善の経営を続けようとすれば、それはルールが通用しないマーケットとレッテルを貼られ、人が寄り付かなくなってもしかたがない。欧米でエリート教育の一環としてスポーツに打ち込むのは、ルールに則った競争を身に付けるためとも言う。

Cash is Kingの時代

日本でなかなかデビットカード、カード決済が普及せずに、主婦が真新しい一万円札(アメリカでは100ドル札にお目にかかることは滅多にない。レジ係は100ドル札が本物かどうか何度も確かめるよう教育されている)で買い物をしている理由として、欧米メディアが「犯罪率の低さ」と、そのあたりに泥棒がいないことを挙げていたが、それ以上に、根強いクレジットカード使用への不信感があるような気がする。若い世代ではそんな思いはかけらもないだろうが、一時的にでも負債を負う、という感覚が嫌なのだろう。

今はアメリカの金融市場でもキャッシュは王様だ。皆がキャッシュを作るのに必死で、コモディティもそのお陰で売られてしまうぐらいだ。キャッシュはリスクフリーだが、その分、何も生まない。コーンを5000ブッシェル買っても、コーン自体が増えることは絶対にないが、コーンの値段は上がるかもしれない(下がるかもしれない)。それに比べ、現金は現金のまま。逆にインフレ換算すると、目減りするぐらいだ。それでも、皆が換金に走る理由は、それがマーケットの要請だから、というのももちろんだが、信用が揺らいでいるから、というほかない。

お金というシステム自体も、信用のたまものだ。ただの紙切れがお金として流通するためには、強力な魔法がかかっているからだ。ドル紙幣は財務長官のサイン入りだが、この後ろ盾が危うそうだ、と思ったら、その通貨自体(この場合はドル)が売られてしまう。すべての価値は相対的なものなのだ。今後はその相対感がよく見える過渡期を迎えることになる。

小さな政府の結末

単純化すれば、共和党小さな政府を標榜し、民主党は保護主義的な傾向がある。現政権は、富裕層を対象に減税し、あとはマーケットに任せておけば大丈夫、というスタンスだった。雇用も増加し、ほらご覧の通り、と言っていたわけだが、それもバブルの一部だったようだ。

小さな政府でカバーできない手薄な社会保障の部分はどうするのか?ブッシュ説に立てば、それはCompassionate conservatism(思いやりのある保守主義)で、(自由市場主義、減税のおかげで)ますます余力ができた人達の善意で、解決できるというのだ。美しいシナリオだが、人の善意に頼るシステムは危険である。アジアでの津波被害でアメリカ政府の援助額が非難されていた頃、「アメリカの一個人(一企業だったかも)で、北欧の一国よりも巨額の募金をしたケースもある(含意としては、だからがたがた言うな)」と驚くような投書を新聞に送ってきた人もいたが、きっとこの人物は共和党員に違いない。でも、実際に大金持ちになったコネチカット在住のヘッジファンド・マネージャー達は、使い切れないほどのお金を、フィランソロピー、アート投資、政治献金に投入し始め、大統領選の政治献金パーティーの開催場所がマンハッタンからコネチカットに移動しつつあるほどである。これも思いやりのある保守主義で狙ったものだったのだろうか。

両政党共に、時代の流れに乗って、規制緩和を進めてきたが、先週、財務長官のポールソンは過去の誤りを認めた。それなくしては、政府がお金を使って事態の打開に乗り出すことはできないだろう。お金は、結局は税金なのだから。(まだ資金援助だけで公的資金は入っていないにせよ、Fedがこれだけ利下げをしている時点で、ドルを持っているすべての人から広く一律に、金融機関救済資金を徴収しているようなものだ。)しかし、思いやりのある保守主義で、政府の救済が入るのか?この後に及んでは致し方ない選択だろうが、お金の使い道、政策の立て方として、バランスが悪すぎると思うのは私だけではないはずだ。

物言う株主/株主vs. ボンドホルダー

JPモルガンによるベアー・スターンズの@2ドルの買収価格は、株主が損失をのむ取引だが、彼らは「株主」なので、株式に内蔵されている経営権の自分の持分の分だけ、発言権がある。本社だけでも、@8ドルと言われているので、彼らが何とかよりよいディールを模索したいというのは当然だろう。おまけに三分の一の株主はベアーの社員であり、すでにひとところに固まっている。彼らは団結して、JPMからもっといい条件を引き出すか、もっといい条件をオファーするライバル社を探したいところだ。

教科書的には、ボンドよりも株式のほうがリスクが高い。ベアーのケースでは破産を免れたため、ボンドホルダーは無傷である。しかし、物申す株主が想像つくだけに、このまま平和にベアーが買収されるためには、どうすればいいか、、、彼らは自分達も発言権を得るために、一桁台になったベアーの株を買いに走り、それが昨日の株価上昇につながったと言う。

ボンドホルダーにも、社債権者集会など、権利はあるものの、経営に参画し、自分のボンドの価値を守るには、株の世界で同じ土俵に立つしかなかったということだ。決着がつくまでには、この両者の純粋な闘いだけではない力も働きそうだが、委任状集めに発展するのだろうか。

アメリカにかかるマージンコール

マーケットも週末の衝撃を消化しつつ、FOMCも終わり、ダウが戻り始めてみると、ベアーの2ドルディールはさらに「?」であり、ベアー・スターンズ株はスペキュレーションも入り、大幅(2ドルから見れば何でも大幅に見える)に上昇している。合併アーブはベアーのお家芸だったと思うが、今回の買収劇もビジネスチャンスになるのだろうか?(そもそも、当事者は合併アーブに参加できるのだろうか?)

週末のウォール・ストリート・ジャーナルの一面には、Fedがベアー救済に乗り出した記事(この時点では、まだJPモルガンは買っていません)の下に「アメリカにかかるマージンコール」という記事が載った。もちろん、マージンコールは相対の個別の金融機関の間でのことだが、(最近では、「この何度も電話をかけてくる、マージンって奴は誰だ?」というジョークまであると聞く)、アメリカ全体から、お金が引き上げつつあるという意味だ。普通、簡単にマージンコールに応じられる相手には電話はかかってこない。返してもらえないかもしれない、と思うから、皆が回収に走るのだ。アメリカ人は何故、自分達が返せないのか分かっているだろうか?(A. 皆、使ってしまったから)

これからお金持ちになっていく、アジア諸国については、(円滑な世界経済の発展のためには)貯蓄するのではなく消費が必要、と言われている。貯めているだけではお金は回らないが、稼いだ以上に使っては返せるわけもない。

マーケットのチカラ

週末をはさむことが吉と出るのか、答えは週末を越える前に出てしまった。グローバル基準では、アジアのマーケットが開くまでが、オフィシャルな週末なのかもしれない。ベアー・スターンズは236ミリオンで、JPモルガンに買収されることとなった。ベアーのトップは、このディールを飲むか、翌日になったら当局のバックアップなし、つまりチャプターイレブンか、という選択を迫られたというから、そこは合理的な判断だろう。

しかし、ベアーのマディソン・アヴェニューの一等地の本社だけでも(そう、もうウォールストリートにある金融機関のほうが少ないのです)10億ドルは下らないといわれている中の、一株2ドル、236ミリオンの買収金額である。おまけにFedのバックアップ付き。資産・負債を両建で背負わなければならないとしても、破格の好条件である。それでも、他に(ほとんど)有効な買い手が現われなかったというのだから、マーケットの冷え込みは推して測るべしである。ただこの場合、236ミリオンを払えるだけでなく、買収によって、ベアー・スターンズの流動性問題を止めることができなければならないため、すると候補は限られる。バックに付いたJPモルガンと取引したくない、と言う者はいないだろう。ただ、ベアー・スターンズのカウンターパーティ基準よりも、JPモルガンの基準のほうが遥かにきついだろうが。

つけはまずは株主にきたわけだが、この2ドルの単価を巡り、すでに、今日、クラスアクション(集団訴訟)がファイルされている。これも合理的な行動だろう。

前世紀のアジア通貨危機では、ターゲットとなった国のトップはヘッジファンドを非難していたが、あれはマーケットを非難してもしょうがないので、誰かに文句を言うためにヘッジファンドを挙げているのだと思っていた。そうでなければ、マーケットのチカラに対する理解がなさすぎる。マーケットはベアー・スターンズの株価を2ドルにしてしまうほど、brutalで非情なのだ。

今日の午後、ポールソンはホワイトハウスでマスコミに対し、ベアー・スターンズの売却を擁護していた(当然だろう)。一ヶ月前、上院のコミッティーで証言していたときよりも、顔色は悪く、遥かに疲れて見えた(これも、当然だろう)。そして、あのときは野心家のNY知事だったスピッツアーも、もういない。

“It”探し

しりとりのようだが、昨日、最後に触れたベアー・スターンズは、カウンターパーティーの不安感を自分だけでは払拭できず、JPモルガン、NY連銀の救済を仰ぐことになった。これは、言うまでもなく、とてつもなく深刻な事態である。それがまた心理的マイナス効果をもたらすが、放っておけるものではない。関係者は何とか今週の営業日を乗り切りたいと思っていたが、あと一日というところで、自力では無理ということになったのだろう。

じゃぶじゃぶしていた過剰流動性が引き上げられる過程では、力の弱い者、弱そうに見える者、もしくは皆が弱いと思っているだろうと思われる者から順に干上がっていく。それだけではなく、そこにスペキュレーションもかかってくる。そして弱い者いじめのように、一度狙われると、攻撃されるのではなく、皆が集中的に手を引き始める。今、その”it”(鬼ごっこの鬼のようなもの?スティーブン・キングの作品にも『It』がありますね)はベアー・スターンズのようだ。しかし、ベアーは金融機関だからこそ、Fedの音頭で救いの手が伸びてくる。次の"it"については、そうはいかないかもしれない。

ベアー・スターンズの件が着地するまでには時間がかかるかもしれないが、すでにマーケットは次の"it"を探し始めている。週末をはさむことが吉とでるのか、はたまた、、、。

規制強化への転換/過去は誤り

やはりFedの策の心理的効果はそう長くは持たなかった。今日は規制当局、財務長官のポールソンが、モーゲージ業界、クレジットの規制強化等を打ち出したが、やはり一番大きかったのは、元ゴールドマン・トップのポールソンが、過去の規制緩和、そしてワシントン、ウォールストリート双方が間違っていたことを認めたことだろう。過ちを認めない限り、正しい処方箋は出てこない。これまでのルールは、書き換えられようとしている。

Fedの流動性供給策はプライマリーディーラーを対象としたものだ。Fedが中央銀行なのだから、当然とも言える。しかし、金融機関の枠の外のプレーヤーのプレゼンスは、過去に比較し圧倒的に大きくなっている。これもチープマネー、過剰流動性を反映した現象だが、そのお金を追って、プライベートエクイティヘッジファンドなどの金融機関以外の存在が、数も規模も増大していたのだ。彼らは規制を嫌って、あえてオーソドックスな金融機関を飛び出し、その業界を選び、開示を求めない富裕な投資家、あるいはプロを相手に商売してきたのだから、当局に救済を求める筋合いではないだろう。金融機関の破綻に比べれば、回転の早いヘッジファンドの破綻はよくあることであり、影響もまったく異なる。現に、今は不安感を払拭するのに必死のベアー・スターンズは、すでに昨年、ヘッジファンド二つをたたんでいる。

しかし、金融機関ではないまでも、マーケットの潤滑油、リスクテイカーの役割を果たしてきた、ヘッジファンドの機能が止まってしまったら、どうなるだろう。彼らはすでに金融システムの中に入っている。LTCM一社であれば、対策も立てられるかもしれないが、それが同時多発的に起こった場合どうなるのだろうか。その恐怖があるため、マージンコールが止まらないのだろう。

究極の債権流動化

証券化とは、そのままにしておくと、満期まで待っているしかなかった債権を流動化するために生まれた仕組みである。大口でも小口でも債権を寄せ集めて小口分散化し、ほかの人にリスクは移し、自分はそのお金で新しいことを始める。こうしてお金は何回転もしてきた。が、ここにきて、お金の回転速度が落ち、モーゲージ担保証券のような売れないものは沈殿のように底に沈みつつあった(塩漬け?死語?)。ただそれでは、流動している部分が薄くなりショートしてしまう。

このままでは困るため、Fedは新しい策を打ち出したわけだが、ポール・クルーグマンはそれを評して、月曜日のNYタイムズ誌に、「Fedは質屋業(Pawnbroker)に乗り出した」、と書いた。銀行は売れないモーゲージ担保証券などをFedに質入れして、現金化する仕組みだ。昨日、導入が発表されたTSLFでは質入れすると、トレジャリーがもれなくでてくる。トレジャリーなら一般的な担保として通用するし、現金化も簡単である。これは、究極の債権流動化である。当局・中央銀行は自分でルールを作ることができるから、何でもできるのだ。しかし、その結果も後世にわたり背負っていかなければならない。彼ら自身がシステムだから、倒産させて、はい、一からやり直し、とはいかない。

今回の危機は、日本の失われた10年ぐらいのインパクトがあるのでは、という声も聞こえるが、後追いのその場しのぎの対策を続けていると、無駄にエネルギーと資源と時間を浪費することになりかねない。この中では、時間が一番重要だ。ポジティブなことに皆がエネルギーを使える体制に早く持っていかなければ、一番重要な資源、時間はどんどん無に帰してしまう。

スピッツアーのスキャンダルはショックだったが、クリントンは生き残って、スピッツアーが失脚してしまうのは、いまひとつ納得がいかない気分だった。しかしながら、コールガールに8万ドル以上(!)使ったとあっては、その気分も吹っ飛んだ。

Fedのさらなる流動性供給策/トレジャリーの貸し出し

Fedのさらなる流動性供給策/トレジャリーの貸し出し
止まらないクレジット・クランチを鎮めるため、Fedは火曜日、新たな流動性供給策を打ち出した。プライマリー・ディーラーに対し、高格付(だけど売れない)モーゲージ担保証券も担保に受け入れて、短期間トレジャリーを貸し出すというもの。Term Securities Lending Facilities (TSLF)である。この枠は2000億ドル。これまでの流動性供給策とあわせると、4000億ドルの急ピッチで心臓麻痺を起こしそうな(すでに起こしている?)市場に、血液を送り込んでいる。

株式市場は今日は反発しているが、これで収まるとは思えない。問題なのは流動性の欠如だけでない。自分が貸している相手から取りはぐれるかもしれない、という不安感なのだ。その取りはぐれるかも感は、更に20%下がるかもと言われている住宅市場が下がるにつれ、高まる。フレディマック、ファニーメイは政府系、という暗示的なサポートだけでなく、全面的な保証を打ち出すなど、根本的な策、もしくは材料が出尽くさない限り、止まらないだろう。そして、そのうちトレジャリーの価値も目減りしていくことになりかねない。

まったく上記と関係ない話ですが、将来、絶対に大統領選に出てくると思っていた、ニューヨーク州知事、エリオット・スピッツアーがコールガールスキャンダルで失脚してしまい(いやまだ辞めてませんが)、衝撃です。

ドイツの左翼党の躍進/社会(民主)主義的ヨーロッパ vs. Right Nationのアメリカ

ドイツでは、伝統的な左派政党は社会民主党(SPD)であったが、旧東ドイツ共産主義政党の流れも汲むハードコアの左翼党(Die Linke)が着実に支持層を拡大している。昨年、初めて、旧西ドイツの州議会で議席を獲得し、先週も含め今年に入ってからも、新たな州で議席を獲得している。もともと支持基盤は旧東ドイツであったが、その支持は西側にも広がり、世論調査では支持率14%となり、来年の国政選挙では、キャスティング・ボートを握る可能性が高くなってきた。

ドイツはいうまでもなく、EUの巨人であるが、そこに至るまでには、シュレーダー政権下でビジネス・オリエンティッドの政策をとり、成長した分、その変化に乗り切れず、負け組となった人達も多い。その労働者階級が従来の支持政党のSPDから左翼党に乗り換えつつあるという構図である。ヨーロッパでは左派政権の誕生は新しいことではない。スペインでは社会労働党が再度勝利を収めたばかりだし、フランスでは昨年はサルコジ大統領が誕生したものの、各地では左派が盛り返している。しかし、ドイツでは、更にその左が支持を集めつつあるということだ。80年代以降の緑の党のような存在になるやもしれない。

二大政党制のアメリカではこれはありえない。左翼政権の誕生が、現在のルールの下ではありえないのだ。大統領になろうと思ったら、本気であれば、どちらかの政党に属する必要がある。マイケル・ブルンバーグのような大富豪(かつ有能な人物)が、間隙を縫って、独立候補として勝つ可能性もなくはない。ただ、最初から大統領になることが目標であれば、このオプションはリスクが高すぎる。また大富豪が左寄りになること自体、考えにくい。今年の大統領選挙では、現政権からのより戻しもあり、民主党が勝つだろうが、全国的に勝つためには、本心はさておき、どうしても中道寄りとなり似たような路線を追求せざるを得ない。そして、聖書に手を置いて、宣誓を求められるアメリカでは、信仰心なくしては、大統領選に勝つことはできない。一般的なアメリカのイメージは、リベラルであろうが、それは「ほんの一部」の大都市のもので、全体としてのアメリカはその成り立ち、構造からして、コンサーバティブRight Nationなのだ。

現在のリセッションが更に具現化する過程では、不満層が膨れ上がるだろう。そのときに、一気に左寄りの政策を求めることができるような政党はアメリカにはない。もちろん既存政党が囲い込みのために智恵をしぼるだろうが、富の格差拡大の中で、何が起こるのか。ポスト資本主義の流れはそのあたりからも始まるのではないだろうか。

止まらないマージンコール/Fedの流動性供給策

クレジット・クランチは加速する様相を見せている。担保証券の目減りから、マージンコールがかかり始め、売れるものがなくなり、お手上げ(デフォルト)となるところがでてきた。これで倒産、となると、短期市場は一気にショートしてしまう。どの金融機関、金融会社も、レポ、短期物担当デスクは電話のなりやまない、胃の痛い日々を送っているに違いない。

当局はモーゲージ市場をバックアップしようと、持ち駒のファニーメイ、フレディマックをフル稼働しても、どちらの保証物も売り込まれスプレッドが拡大していくようでは、手がつけられない。つまり、市場はこれでは落ち着かないということである。

さらに2月の雇用統計は5年ぶりの大幅な雇用の悪化を示しており、あわせたように(実際、あわせたのだろうが)Fedは新しい流動性供給策2つを打ち出している。Term Auction Facility(TAF)の金額を引き上げ、銀行への流動性供給枠を増やし、モーゲージ可の短期レポでも資金供給を始めることを決めた。回収モードに入ったクレジット市場を沈静化させるには、対策は後追いではなく、スピードと規模が重要だが、不動産価格つまりアセットの下落自体は避けようがない。するとドル紙幣を刷り続けるわけにもいかず、長期的な帳尻あわせはどうなるのか。(ドル安?)

ECB vs. Fed

6日、ECBは金利を4%に据え置くだけでなく、トリシェインフレは目標値よりも高めの状態が続くだろうと発言した。どうやらECBは当面金利を据え置きそうだ。

UBSの株価が急落しているように、ヨーロッパとて金融市場も経済も不確定要素が大きい。それはECBも認めている。しかし、それ以上に彼らにとって重要なのは、物価の安定、インフレファイターなのだ。統合したユーロの中央銀行ではあるものの、これはブンデスバンクのなごりとも言える。Fedが3月18日のFOMCで現在の実質ゼロ金利とも言われる3%のFFレートから、さらなる大幅な金利引下げに踏み切るかは、足元の経済指標の数字などからやや不透明になってきたが、それでも、このところのアクションで、ECBFedのスタンスの違いがはっきりしてきた。

もちろんFedにとっても、インフレは最重要課題の一つだが、それ以上に経済、マーケットとの協調策をとってきた。金利差だけでも、ユーロ高、ドル安は避けられない。各国中央銀行は協調したとしても、自国のための独自の金融政策があってしかるべきである。プラザ合意のように、過去にはアメリカは各国にアメリカのための金融政策を世界のためとしてお願いしていたこともあったが、実際に、アメリカのプレゼンスが大きすぎて、実質世界のためだった。しかし、前提が今では大きく変わっている。これは競争でも、闘いでもない。しかし、長期的にはどちらが正しかったか、結果が見えるだけでなく、台頭するユーロ圏のプレゼンスはECBFedの力関係の変化にも現われるだろう。

Fannie Mae & Freddie Mac/ファニーメイとフレディーマック

さらなる住宅の差し押さえ、モーゲージ市場のデフォルトを避けるため、Fedも政府も一段の対策に乗り出している。まず既存の枠組みを変えることでできることとして、政府系モーゲージ会社(政府系住宅金融機関)のファニーメイ、フレディマックの住宅モーゲージの投資の上限枠を今月頭から撤廃している。そして両社に自己資本の増強を促し、さらなるモーゲージ購入、保証の付与を期待している。

この両社が普通に営業し、CMOが組成されていた頃は平和だった、、、という時代になり、今は、この政府系機関が政府のバックアップがあるだろう、ということで、最後の買い手として期待されている。これからは信用審査さえなかったモーゲージ(no documentation loans、書類の少ないローンと言われる。つまりクレジット情報(書類)を提供することなく家を買えてしまったということ)も、売り市場に出てくるわけだが、そういったリスクを取ることができたとしても、いくら政府のお墨付きとはいえ、結局は政府のバックアップのバックアップは国民の税金である。もっと俯瞰すれば、世界中の人が目減りするドルでツケを払わされていることになる。

そしてこの両社とも、上場しており、マーケットの評価にさらされているところが、マーケットを無視しては政策運営できないゲームの構図でもある。

プライムのサブプライム化

サブプライム・ローンとは、従来であれば、住宅ローンを引くことができなかった、クレジットスコアの低い人達向けのローンであるが、住宅バブルの中、与信審査も借り手への条件の十分な説明もないままに、頭金なしで当初低利で貸付け、借り手は途中の金利見直しで、突如跳ね上がった金利が払えず、物件差し押さえ(foreclosure)、立ち退かなければならなくなり、そのモーゲージを元に作られたABSのデフォルトも急増、という状況である。

では、サブプライムではない優良な借り手とは何か。それがプライムとなるが、『YouWalkAway/住宅モーゲージの更なる危機』でも書いたように、サブプライムに限らず、立ち退きを選ぶ人がでてきている。実際に、プライムの借り手(prime borrower)の物件差し押さえが増加しているという統計も発表された。

高い金利が払えなくなり立ち退く、という構図に、住宅価格の下落により、払えるけれどこの買い物を途中でやめる、という現象が加わっている。住宅は言うまでもなく、普通の人にとって人生で一番大きな買い物である。現在、当局からの圧力もありモーゲージ会社は差し押さえを避けるため、ローンの条件の改定に応じているが、ちょっとやそっと利率が変わったところで、しばらくすると、自分の支払い能力が倍増するわけでも、住宅価格が復調するわけでもないとすると、それでも人は立ち退くことを選ぶ。さらなるデフォルトを防ぐためには、抜本的な対策が必要な段階に来ている。

States vs. Corporations/地方自治体と企業と格付

サブプライム・ローン問題、モノライン、そして終わりの見えないクレジット・クランチ地方債は大きな打撃を受けている。将来的に景気悪化で税収に影響が出れば別だが、地方公共団体自体の財政、つまりクレジットにはまだ変化はない。しかし、オークション証券だけでなく、通常であれば、税の優遇措置があるため、その分、地方債の利回りは低くなるが、それもモノライン問題などの不確実性もあり、地方債の利回りは上昇し、地方自治体の資金調達コストが上がっているのだ。

そもそも地方債のデフォルト率は同格付の社債よりも低い。そこで、今回のウォール街主導のクレジット・クランチに巻き込まれた地方自治体が、この機運に乗って、地方自治体の格付は企業よりもいいはずだ、とクレームをつけ始めた。地方自治体はトリプルAがつかないから、わざわざ保証料を『企業』であるモノラインに払っているが、そもそもその格付が低いのではないか、というのだ。カリフォルニアから始まったこの動きは、今月、下院で地方債格付について公聴会が開かれるまでになっている。

ただ、景気下降局面にある今、見直しが適切なのか、という声もあれば、皆がAAAになってしまっては、クレジットのレベルの見分けがつかない、という切実な意見もある。でも、地方自治体の調達コストが上がって結局そのツケを払うのは、納税者なのだ。今のところ、最適の資金分配をしてくれるということで、マーケットが使われているが、そのファシリテーターである格付機関のさじ加減でも、特定の利益団体に有利にことが運ぶというのが垣間見える。

多極化時代(multipolar world)のパワーバランス

コモディティ高は、これまでの世界基準通貨だったドル建てとなっているため、昨今のドル安を繁栄したものとも言える。世界のすみずみまで行き渡り、あふれかえっているドルを、突然ほかのものと取り替えることはできないが、相対的な他国の発展により、ドル、そしてアメリカの地位は変化していく。

トーマス・フリードマンの『The World Is Flat/フラット化する社会』によれば、インターネットで繋がれて、平らになった世界では、これからは賢くて(smart)、早い人達の時代になるという。ノルウェーやアイスランド、シンガポールのような国のスマートな人達が典型的な例だろう。知能にいくらでもレバレッジを効かせることのできる、この時代。スマートでInnovativeな人達のアイデアは世界を駆け巡る。ただ、コモディティ高が示すように、資源争奪戦が始まっているのも確かであり、さらに食糧争奪戦も見えてきている。それでも、世界のすみずみまで、派兵できる力を持ち、各大陸に兵力を駐留しているのは、アメリカだけである。

そして人はパンのみで生きるものではないと言う。様々な要素が複雑に交錯した結果としての未来が出力されることになる。